廃墟デート

ある地方に住むAさんは、学生時代にガールフレンドと一緒に廃墟を巡るのが趣味だった。二人ともお金がなかったため、密かに人気のないマンションやアパートに忍び込むことが彼らのデートコースだった。
ある冬の夕方、暗くなり始めた時間帯に大通り沿いの廃マンションを見つけ、興味をそそられた二人は、フェンスを越えて中に入り、使えそうな部屋を探すことにした。
笑い声
4階にたどり着くと、驚くほど整った部屋を見つけた。埃ひとつなく、まるで誰かが住んでいたかのように清潔な空間だった。彼らは安心して座り、談笑しながら時間を過ごしていた。しかし、楽しい雰囲気が一転する瞬間が訪れる。どこからか、押し殺したような笑い声が微かに響いてきたのだ。
「誰かいるんじゃない?」と彼女が不安そうに言う。その笑い声は、二人の目の前にある押し入れの中から聞こえていた。
30分ほど過ごしたはずのこの部屋に、誰かが隠れて自分たちを見ていたのだろうか?Aさんは怒り、押し入れを勢いよく開ける決意を固めた。

押入れの中には・・・

押し入れの扉を開けた瞬間、そこには人形がずらりと並んでいた。無数の小さな日本人形が視線を外して並んでいる中、その一体が微かに動き出し、赤い着物を着た女の子の人形が首を傾け始める。
そして、首がゆっくりと床に落ちた。その瞬間、他のすべての人形の首が一斉に回り、二人に視線を向けた。
恐怖に駆られた彼女の悲鳴を合図に、Aさんと彼女は全力でその部屋から逃げ出した。
廊下を駆け抜け、振り返ることなく建物を後にした。二人がその後、二度と廃墟に足を踏み入れることはなかったという。
